さよなら、愛しき日々よ

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 本当は行きたいところなんてどこもなかった。ただ、もう少しだけ優斗のそばでいたい。それだけだった。叶わないなんてことはわかっている。でも、それでももう少しだけこの時を続けていたかった。 「そういえば、寮監にあれ返したのか?」 「あれ?」  思い出したかのように優斗は言った。けれど、心当たりが多すぎてわからない。あれとはなんだろうか。どうしても読みたくて借りた全二六巻の歴史物の漫画? それとも雨の日に外で走り回った俺たちに呆れたように貸してくれたジャージ? あ、花火するときに借りたジッポも返してなかった気がするな。 「お前、よくそれだけ借りっぱなしにできたな」 「え、違うの? じゃあ、なんだろ」  呆れたように優斗は俺を見て苦笑を浮かべる。俺は必死に思い出そうと部屋の中を見回した。六年間の思い出がこの部屋には詰まっている。  優斗と一緒に授業をサボってベッドに寝そべって漫画を読んだ日のことも、熱を出してうなされる俺の手を握りしめてくれていた優斗の手のぬくもりも、初めてキスを交わしたのも、全部この部屋でだった。  終わることなんてないと思っていたのに、もうすぐ終わりを迎えるのだと思うと、胸が痛い。     
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