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私の好きな人
「翔子先輩って、好きな人いるんですか?」
「えっ?」
昼休み中に訪れたイタリアンレストランで、アラビアータを頬張りながら、彼女は突然そんなことを言った。その問いに、私の心臓は一瞬だけ鼓動が大きく跳ね上がる。
「な、何よ、いきなり……」
私は、一口頬張ったエビグラタンを飲み下すと、動揺しているのを悟られないようにしながら訊く。
「えー、だってぇ、いっつもあたしの彼氏の愚痴聞いてくれるのに、先輩の恋バナって聞いたことないなーって」
二十三歳という年齢のわりには幼い顔立ちの彼女は、アラビアータを食べる手を止め、子どものように好奇心で満たした目を私に向けた。
「で、どうなんです? 好きな人、いるんですか? いないんですか?」
「う……」
グイグイ迫られて、言葉に詰まる私。
なんだか、普段ならとても可愛らしく見える彼女の焦げ茶色のショートボブにVネックの黒いカットソーが今は小悪魔に見える。そんな小悪魔に見つめられて、何もかも喋ってしまいそうになるが、私の好きな人のことは言えるわけが、ない。
だって、私の好きな人。それは――……、雨宮香純ちゃん。あなたのことだから。
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