私の好きな人

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 半年前、私がいる部署に入社したそのとき。一目見て、私はあなたのことが好きになってしまった。自分とは正反対の、九歳も年下の小さくて可愛いあなた。守ってあげたい、サラサラの髪を撫でたい、手をつなぎたい、家で一緒にのんびりと過ごしてみたい、柔らかくてハリのある肌に触れたい、ピンク色の口紅を塗ったその薄い唇にキスしたい……。彼女を見るたびに、そんな妄想で胸が締め付けられる。  昨今、同性愛者に対して寛容になりつつあるものの、異性愛者である香純ちゃんに打ち明けて今まで通り過ごせるとは限らない。香純ちゃんの教育係に任命されたのを利用して、昼食を一緒に食べたり、仕事終わりに飲みに行ったりするようになったのに、自らその信頼関係を壊してしまうのは私にはとても……耐えられなかった。 「い、いないってば。同じ会社の人は仕事仲間としか思ってないし、取引先の人はお客様だから、恋愛感情なんて……」 レズビアンであることを打ち明けることなどできるはずもなく、私はいつも親や同期、友人に恋バナを振られたときのように無難な回答をした。 「ええー、ほんとですかぁ?」 「ほんとだって」  こちらの心を見透かすように、ニヤニヤと笑う香純ちゃんを放っておいて、私は少し冷めて適温になったグラタンを再び口に運ぶ。そうしながら、私は先週末に同期と飲んだ時に出た話題を思い出していた。 『ねぇ、翔子。あんたの部署にいる背がちっちゃいのに巨乳の子いるでしょ? 雨宮さん、だっけ? その子、社内の色んな男に手を出してるんだって。しかも、あんたにフラれた人ばっかり。嫌がらせかもしれないから、気をつけなよね』     
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