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卓也が辞めたのは小学校5年生の時だった。翔星にどうしても勝ちたくて、練習で一度も出来なかった技に本番で挑戦してしまった。
結果は最悪だった。翔星が怪我をした時のように固い雪の上に全身を打ち付けて立てなくなった。手術をするような怪我ではなかったけど、飛ぶことが怖くなってしまった。
その時に解決策として選んだのが、次の大会を回避して恐怖を克服することに専念すること。だけど、そのまま克服することは叶わず辞めてしまった。
当時そのすべてを近くで見ていた翔星は現在の自分と重ね合わせていた。だから、周囲になんて言われようとも大会には参戦したし、この大会で失敗した技で飛ばなければならないと思っていた。
「飛べなかったら、翔星はどうするの?」
「わからない」
一本目を終えた時点で翔星の順位は3位のままだった。2本目が始まった。学校の予鈴が鳴った時点で4人が滑り終えていた。次の次が翔星の番。雪子は教科書を取りに廊下のロッカーへ向かった。教師も現れて後に続くように教室へ入った。雪子が席に着くと卓也が駆け寄ってきて、
「多分大丈夫」
そう言って自分の席へ戻っていった。雪子がスマホで結果を確認するとまだ翔星は滑っていなかった。変わったのは順位が4位に下がったこと。何を根拠に言っているのか見当もつかないまま授業が始まってしまった。
「携帯はいじるなよ」
教師に釘をさされて雪子は自重するしかなかった。授業が進んでしばらく経つと、教師に男子が問題を解くように指名された。いつもは露骨に嫌がるくせに
「よっしゃー」
と雄たけびを上げた。もうその態度で翔星の結果がみんなにも伝わった。一斉に生徒たちが拍手で讃えたことで、先生も無礼講とするしかなかった。
雪子は授業が終わってすぐに結果を確認すると、翔星は逆転で優勝していた。そして、怪我をした技を成功させていた。
「どうしてわかったの?」
雪子は悔しさを通り越して、未来を言い当てた真実を知りたがった。
「4位に下がったからだよ」
卓也は思い出を振り返るような遠い目をして、しぶしぶといった感じで、また自分が怪我をした時の続きを話してくれた。
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