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練習でも飛べなかった技を無理を承知で飛んだのは、翔星の影響を受けたから。その時の大会で翔星は調子が悪くて1本目を飛んだ時点で4位だった。
表彰台すら届かない順位に追い込まれた翔星は成功したことのない技にトライした。そして、成功させてしまった。順位を抜かれた卓也がその後、同じようにトライして怪我を負ってしまったのだ。
卓也を追い込んでしまったと、負い目を感じている翔星。そう思わせてしまっているのに、恐怖に負けて復帰することが出来ず、責任を感じている卓也。そんな二人の特別な関係に割り込めるわけがないって雪子は納得するしかなかった。
「翔星は私のこと本当に好きかな?」
「なにその恥ずかしい質問」
「だって、そこしか勝てるところがないんだもん」
恥を忍んで聞いたのに、卓也は自分で聞けって答えてくれなかった。どうせ翔星に聞いたって答えてくれないとも言われた。
雪子は羽田空港で待っていた。今回はお邪魔虫の卓也は来なかった。約一ヵ月ぶりの再会。今回も雪子は駆け寄ることもなく出迎えた。
「優勝おめでとう」
雪子の言葉に翔星は驚いていた。
「怒ってないの?」
「怒っているよ」
「どうしたら許してくれる?」
「私を好きになった理由を言ってくれたら」
翔星は黙った。いつもだったらすぐに文句を言う雪子も黙った。答えてくれるまで何も言うつもりはなかった。卓也が予言した通りにはしたくなかった。
「俺は将来結婚したいと思っている」
口下手な上に言葉足らずな翔星の答え。想像するに結婚をしたいと思うほど好きだってことが言いたいのだろうけど、質問と答えがまるでかみ合っていない。せっかく場所もタイミングもこれ以上ないってくらいのシチュエーションなのに、この変人に期待する方が間違っているんだって雪子は悟った。
「将来っていつの話?」
雪子は適当な発言だって思って追い込むつもりで言った。
「19歳」
翔星の答えは明確で壮大だった。
「来年のオリンピックは無理かもしれないけど、その次なら優勝できるよ。そしたら結婚しよう」
2位だったらどうするのかって聞くのが怖いけど、夢を見るくらいなら悪くないなって雪子は思った。
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