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雪子は黙って聞きながら、同じように涙を流していた。その涙は翔星の苦悩に共鳴したものと、その苦悩を自分には打ち明けてくれなかった寂しさだった。電話は一時間ほどで終わった。
「雪子には弱い部分は見せたくないんだよ。カッコつける奴なんだよ。だから、気にすることないよ」
いつも通りフォローしてくれる卓也の声は、雪子に届いているけど心には響かない。
それから今日までの4日間。翔星から毎日電話があった。普段通りの会話。どんなドラマが面白くて、どんな曲が話題になっているのかって日本のことばかり聞いてくる。まるでオーストラリアのことを触れて欲しくないみたいに質問を繰り返す。
悩みを聞いてあげたいし、支えてあげたい。でもそれは翔星から頼ってくれなければ雪子にはどうしようもなかった。
そうして雪子は散々心配をしたけれど、翔星の結果は何の問題もなかった。やっぱり自分は必要ないんだって雪子は落ち込んだ。卓也がいれば全部解決してしまうんだって悔しかった。
また一日が過ぎた。決勝だった。翔星が滑る時刻は学校の昼休みだった。
決勝は一人が2本滑るチャンスがあって、得点の高い方が結果として採用される。すでに翔星の1本目は終わっていた。決勝は8人での争い。6人が滑り終えた時点で翔星は1位だった。問題のあの技にはチャレンジしていない。雪子は自分が心配したところで、なんて卑屈になりながら卓也の席へ足を運んだ。
「翔星は大丈夫なの?」
「わからない」
卓也はスマホを握り締めながら、数秒で更新されるはずのない画面の検索を繰り返していた。卓也でもどうなるのかわからないんだって雪子は思った。
「まだ一度も飛べてないんだよ」
卓也はまるで自分のことのように頭を掻いた。
「無理して飛ぶ必要があるの?」
まだ2本目が残っているとはいえ点数は悪くないし、今回は復帰戦だから無理をする必要がないって雪子は思っていた。
「今回飛ばないとダメなんだよ」
「どうして?」
雪子の問いに卓也は黙り込んだ。雪子はいつものやつだって思った。自分だけ秘密にされてのけ者にされるんだってうつむいた。だけど、卓也は隠さずに教えてくれた。それは先週教えてくれなかったこと。卓也がスノボを辞めた理由だった。
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