1人が本棚に入れています
本棚に追加
文化祭1週間前
「良かったと思うよ」
半分だけ本心を言う。些か前衛的な劇は、ぼくにはちっともわからない。ぼくがこの劇に対して言えることは一つだけ、この時期に朧気ながら話がわかり、曲りなりにも話が完結していることは、大偉業であるということだ。少なくともその点には感動した。その気持ちを、良かった、という言葉に込める。
「どこが?」
口々に部員が聞く。
「先生演劇のことはあんまり詳しくないからな……」
演出として僕と並んで座っていた相沢の温度が、しんと下がった。
「演劇のこと良く知ってるのに、分からないふりするんだね」
聞こえないくらいの声で独りごつ相沢の目は、ビー玉のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!