ビー玉の目、飴玉の目

1/1
前へ
/12ページ
次へ

ビー玉の目、飴玉の目

「先生、大丈夫?」  追憶の世界から、職員室へと引き戻される。相沢だった。 「部活終わります」 「はい、了解。鍵はこっちで確認するから。お疲れ様でした」  鍵を手に立ち上がるのを、彼女が止める。 「先生、さっきはごめんなさい」 「何が?」 「聞こえてたでしょ」  勘のいいやつである。 「何で私が演劇のこと知ってるってわかった?」 「お母さんがよく話す昔馴染みの人に、先生よく似てるの。名前も一緒。何より本を見せる時のあの癖、ママと一緒。」  どうやらぼくの勘も悪くないようだった。ずっと感じていた疑問、なぜ彼女は運動部ではなく、演劇部を選んだのか。何故彼女は舞台に立たないのか。そして、彼女のビー玉みたいで飴玉みたいな目は、何故「彼女」に似ているのか。 「もしかして、お母さんの旧姓って村中……」  相沢は、そっと人差し指を立てる。 「先生、また明日!」  そしてスカートを翻し、ドアの外へと出ていった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加