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再び、文化祭の季節
1年が経った。もうラムネを飲むには肌寒い季節になっていた。村中さんはまた、図書室で一心不乱に本を読んでいた。周りの喧騒なんて耳に入らないかのように。夕暮れの図書室に浮かび上がる彼女の影は、あまりにも美しかった。声なんかかけられなかった。遠巻きにその姿を見た。
「何読んでるか、聞かないのね」
村中さんから声をかけられてしまった。
「何読んでるの」
「これ」
見せられたのは、台本だった。
「村中さんが書いたの?」
「いいえ」
そういって笑う村中さんは、寂しそうだった。
「皆に言われた、演劇やるなら女優やれって。そっちの方が向いてるって」
「もう書かないの?」
彼女の目から涙がこぼれた。
「ええ、もう書かない」
「いつかあなたの書く脚本を、戯曲を読みたかった。それで面白いって思ってみたかった。」
きっとぼくも、ひどい顔をしていただろう。
「今更言わないで。私、卒業式には出ない。文化祭の後、すぐ学校休みになるでしょう?東京行くの。女優になるの。本当に向いてたみたい」
2人とも泣いていた。
「最後まで、好きだとも言わないのね」
「言える訳ないでしょ、だって」
決定的な一言は、村中さんのせいで言えなかった。
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