懲罰との邂逅

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懲罰との邂逅

『あの子はいつも、母親である私ではなく他の何かに許しを請うているようでした』 古びた革表紙の本の一行目にはこう記されていた。 部屋の片隅で埃を被り、日に焼けて変色した表紙の文字は既に読めない。 手に取り開いてみれば、まるで昨日刷られたのではないかと思うほどまっさらで、虫食い一つないページが続いている。 さあ私を手に取って、文字を追って、ページを捲って。 本がそう言っているかのようだった。 『悪阻。酷く、体重の減少著しい……42週、子宮口2cm。入院三日目夜、促進剤投与』 しばらくメモ書きのような文が続く。 妊娠中の様子が事細かく書かれている。 体重、尿蛋白、血圧、血液検査、感染症の有無……。 出生時は至って健康だったようだ。 『夜泣きが酷かった覚えがあります。眠れなかった。乳を咥える時以外、ずっと泣いていました』 生後4ヶ月を過ぎた辺りまで四六時中泣いていたこと。 ようやく眠ったと思えばまた泣き出してトイレに行くことすら困難だったこと。 そしてあまりの耐え難い苦痛に自殺を考えたこと。
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