食わず嫌いボーダーライン

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そろそろ仕事も終わりだと思ったころ、同期である同僚からLINEが届いた。 どうも一緒に取引先に行った後輩がミスをしたらしい。 ひどく落ち込んでいるようだから慰めて欲しいと、自分はその取引先への接待に行くから後は頼むと、両手を合わせたスタンプと共に書いてあった。 「ただいま戻りました」 ちょうどそのタイミングで後輩が戻ってきた。いつもの元気もなく、明らかに落ち込んでいるようだった。 そのまま静かに向かいの席に座る。 おそらく今日の報告を書いているのだろう。ため息を染み込ませながら静かにノートPCのキーを叩いている。 20分ほど経って、キーを叩く音が止まった。そのタイミングを見計らい、横から缶コーヒーを差し出す。 10は歳の離れた若い後輩は疲れた笑顔で受け取った。 「お疲れ様。大変だったみたいだね」 「ありがとうございます。先輩に迷惑をかけてしまいました……」 「そういう日もあるよ。よかったら、このあとどう?」 後輩は少し悩むと 「お供します」 そういってコーヒーを飲みほした。 お互いの荷物をまとめて、エレベーターに乗り込む。終始無言だった。こういう時にすぐにアレコレと聞き出すのも良くないとわかっていたからだったが、恐らくそれは彼も気が付いているのだろう。 何かと敏い子だと思う。お互いに気を使いながら、無言でエレベーターを降りる。 寒風の中いつもの店へと向かった。幸い、今日はそれほど混んでいないようだ。奥の席に通される。 店員にビールを二つと、キュウリの漬物を頼む。 お通しの枝豆を横目に小さく乾杯。喉を通り抜けていく感触を楽しんでいると、いつの間にか目の前に空のグラスがあった。 店員を呼んで矢継ぎ早に2杯目、さらにもう1杯。 よほどミスがこたえたのか、それとも饒舌になりたかったのか、耳まで真っ赤になりながら彼は4杯目を注文した。 それでひとまず落ち着いたようだった。4杯目のビールは一口飲んで、グラスを置いた。 「悔しいです」 「さっきも言ったけど、そういう日もあるから。ね?」 「先輩に迷惑をかけたことも、こうして慰められていることも、不甲斐なくて」 まっすぐな男だ。酒に酔うとその傾向がさらに強まる。取りようによっては失礼な物言いかもしれないが、彼なら不思議と許してしまう。
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