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この街に帰ってきたのには理由がある。小夜と一緒に見たものをもう一度見たいと思ったのだ。
小夜が死んだという報せを受けたとき、僕は小説作家をめざすかたわらオレゴン州のポートランドのアパートメントに居をかまえ、古物商の店でバイトをしながら生活していた。彼女の訃報を受け取ったのは夜で僕は家にいたが、不思議と悲しい気持ちにはならなかった。代わりに僕は一種の諦めの気持ちに満たされていた。報せは母から来たもので、僕がシャワーから出てくるとスマホにメールで着信があった。内容は、
『小夜ちゃんが亡くなったの。あなたたちとっても仲が良かったじゃない。一応連絡いれとこうと思って』
というものだった。
僕は急いで準備をして出発した。できるだけ早く行かなければならないと思った。今回のことは全て言葉になるだろうという予感があったから。虚しかろうが残酷であろうが、僕の魂にとってそれは一種の慰めのように作用しているのだった。次の日の朝一番のデルタ航空の便で成田空港を経由して、関西国際空港に降り立った。空港からは高速バスで明石に向かった。実家に着くともう真夜中になっていて、母も妹も寝ていたのでそのまま起こさず自分の部屋で寝た。
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