クレナータと見る夢は

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クレナータと見る夢は

「樹種、分かった?」 「うん、ブナの木だって」 「そっか。それなら区画、近くで探せそうだね」 「うん。いい区画ありますよ、って、パンフレットもらった」 「それって大丈夫なやつ?」 「私立病院だから、いいんじゃない」  私は里奈からパンフレットを受け取って、ページをめくるフリをした。  樹種に合わせた立地診断、管理人常駐、害虫駆除は随時実施、樹木医による定期診断、肥料調合散布あり――文字なんて、全然頭に入ってこない。  何かの間違いならよかったのに。そんな言葉が、思考回路を突き破って、今にも目から、口から、飛び出してきそうだった。  ヒトの樹木化、と呼ばれる現象が広く知られ始めたのは、五年前のことだ。  それは手足の軽いしびれから始まり、食欲の減退、記憶力、集中力の低下の症状が現れる。  記憶力に自信のあった里奈は、一週間前に訪れた店の名前を思い出せないことに違和感を覚えて、すぐかかりつけの医者で診察を受けた。彼女の母親が同じ症状で樹木化したのは、わずか二年前のことだった。
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