クレナータと見る夢は

2/8
前へ
/8ページ
次へ
 診療所での簡易検査で、陽性。今日は大学病院で受けた精密検査の結果の説明を受けた。私もついて行くと言ったけれど、病気じゃないから、と里奈は断った。 「……お母さんと、同じ区画じゃなくていい?」  樹木化が完了すると、戸籍上は死亡の扱いになるため、将来的に他者の手に渡る可能性のある自宅の庭に生えることは、特別な事情がない限り許可されない。そのため墓地と同様、事業者が運営する区画に、土地を購入する必要があるのだ。 「うん。樹種も違うし、あそこ辺鄙だから」  里奈のお父さんは早くに亡くなって、母子家庭だった。仲のよい夫婦、かわいい子どもたち――そういう「幸せな一家団欒」を夢見ていたお母さんは、娘にその夢を託したけれど、それが叶わないと知ってから樹木化が判明するまでの間、親子はほぼ絶縁状態になっていた。  私と里奈は大学時代の同期で、そこから七年付き合い、同性婚が可能になった年に入籍した。養子を迎えることについて、現実的な話し合いを始めたのは、つい最近のことだ。 「なんか、ごめん」 「里奈が謝ることじゃないよ」 「……遺伝なのかな、こういうのも」 「わからない。けど――」  辛い病気じゃなくてよかった、と言いかけて、私は口を閉ざした。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加