0人が本棚に入れています
本棚に追加
樹木化は、理想の安楽死とも呼ばれていた。一定まで症状が進むと、足は土を求めてさまよい始める。そして、自分の生育に問題のない場所を見つけると、一晩で根を伸ばし、枝を広げ、皮膚は樹皮になって、瞬く間に芽吹いた葉で光合成を始める。樹木になる過程は、その急速な変化にも関わらず、痛みを感じないらしい。皆穏やかな、夢を見、眠るような表情で、樹木になっていくという話だ。
「とりあえず、あと三ヶ月ぐらいは歩けるでしょう、って。夏とかだったら、倍の速さで進んじゃうんだって」
「……それってつまり、寒いところに行けば、進行が抑えられるってことかな?」
「先生は、急激な環境の変化は、おすすめできません、って」
「うーん……」
「意味不明だもんね、実際」
樹木化の原因は、一切わかっていない。地球環境の悪化のせいだとか、天罰だとか、想像や妄想はここかしこにはびこっているけれど、科学的根拠のある推測は、一切発表されていない。
「で、どう? そこ」
「実際見てみないと、なんともだね。他にもよさそうなとこ見繕って、一気に回ろうか」
「じゃ、有給取った方がいいかな。仕事、大丈夫?」
「うん。じゃあ、明日にでもリストアップしとく」
「ありがと」
会社勤めの里奈は、私より先にベッドに入る。いつも通りおやすみのキスをして、寝室へ向かう彼女を見送ったあと、私はパソコンに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!