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私は盛り上がったシーツを撫でる。里奈の細い二の腕が震えていた。 相手を束縛していると感じるとき、里奈はひどくナーバスになる。本人は、長い間母親の理想に縛り付けられていたトラウマだ、と言っているけれど、私は彼女が優しいからだと思っていたし、何度もそれを伝えていた。
里奈にとって、自由は愛なのだ。例えそれが、自分を孤独にするものであっても。
「あたしが……あたしのせいで、美咲がずっとひとりぼっちなの、嫌だよ」
「私も、里奈をひとりぼっちにさせたくない」
「あたし、人間じゃなくなる。美咲に何もしてあげられない」
「それは私もだよ」
ベッドに上がって、白い塊を抱きしめる。シーツと肉の薄い背中越しに、里奈の鼓動が伝わってきた。
「里奈の願いは叶えたいけど、私のわがままも聞いてほしい」
ぶるりと、里奈の体が震え上がる。
「……ブナの寿命って、知ってる?」
「八十年ぐらい。三百年のもある」
「人間の寿命分差し引いても、五十年……このまま木になったらあたし、ずっと美咲を待つことしかできない」
尖ったものをはき出そうとするように息を詰め、里奈の体は丸く、固くなった。
「来ないかもしれないのに」
その言葉に、私が彼女に傾けている愛情への疑いや裏切りを感じられるほど、もう幼くはなかった。準備した場所へ、里奈の待つ場所へ私が現れない、というのは、彼女を不安に陥れる、大きな可能性のひとつだ。
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