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そんなことはない、なんていい加減な言葉を、彼女が望んでいないことを、私は知っている。私もそんな無責任な、ウソになるかもしれない、と理解している言葉を、口にしたくはなかった。
里奈が木になっても、私の人生は続いていく。その中には、恋をする可能性もまた、含まれている。もちろん、そのとき私は、ひとりぼっちで、両腕を開くように枝を広げたまま、身じろぎもせず、私を待っている彼女を思い出すだろう。こうして抱きしめる彼女の体温を思い出して、自分の感情に吐き気を催すかもしれない。それでも、彼女に恋したように、また恋に落ちてしまったとしたら、きっと私は、それを止めることはできない。
けれども、これではいけないと、私は必死に考えを巡らせた。このままでは残された時間を、お互いを傷つけるために費やしてしまう。
今、そしてこの先、私は里奈に何をしてあげられるだろう。
どんな対価を払っても、最高のロケーションで、彼女に待ってもらう。そして私は必ず、週に一度は彼女に会いに行く――どうして私は、こんな平凡な、おまけに彼女が絶対に望まない答えしか、思いつかないんだろう。
「……木って、切っちゃダメなのかな」
腕の中から聞こえてきたくぐもった声に、私は硬直した。
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