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「あたし、今気付いた。木になってからも生き続けなきゃ、って思うから、こんなに苦しいんじゃないか、って。それならいっそ、火葬されるみたいに、炭になっちゃった方がいいんじゃないか、って」
「木になっても、生きてるんだよ」
生きたまま、里奈がバラバラにされて、火にくべられる――そんな恐ろしいことがあるだろうか。
「でも、木になったあたしは、あたしじゃない」
「動けなくても、声が出せなくても、里奈は里奈だよ」
「それならなおさら、あたし、自分がどうなるのか、自分で決めたい」
急にもぞもぞとシーツが動いて、いびつな形になり、頭が生えた。里奈はくるりと私を振り返って、涙に濡れた頬に髪をぺったりはりつけたまま、目を輝かせる。
「決めた。あたし、木材になる。美咲。あたしを使って、何か作って」
不意に腕の中の里奈の体が、細い丸太のように感じられた。
私は木になった彼女が、どれぐらいの大きさになるのかを想像した。これまでの症例によると、人間の年齢分の樹齢ぐらいの大きさになるらしい。
それなら、家、とまではいかなくても、小屋の柱ぐらいにはなるんじゃないだろうか。山で小さな小屋を建てて、そこの柱を彼女で作る。私たちはずっと一緒にいる。私は彼女に声をかけ、彼女は小屋を支え、私を守ってくれる。
「ロッキングチェアなんて、どう?」
はっとして、我に返る。里奈の目は真剣そのもので、私の答えを待っていた。
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