朝の陽の珠

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 初めは、覚えている。私にとっての始まりは。  二年前の七月に入ったばかりの頃だった。高校生になって三ヶ月ほど過ぎていたけれど、私は、不気味なそぐわなさを覚えていた。高校生としての日々は、私には居心地の良いものではなかった。通学の距離も時間も長くなって、勉強の内容も難しくなって、予習や復習、課題が山のように降り積もった。部活動もしていない。何をしていても、常に心の片隅が、不安や焦燥に巣食われていた。  朝が嫌いだった。心の底から、朝が大嫌いだった。充分な睡眠を取れないまま家を発ち、ヘドロみたいなもやもやに支配される重たい頭をもたげて、朝のホームルームに間に合うように自転車を漕ぐ。自家用車の(やかま)しいエンジン音がひっきりなしに横を通り過ぎる。バスはなおいっそう騒がしい。遠くで踏切の警告音が聞こえる。電車が走れば地鳴り。車のクラクション。街路を往く人は速足。  何をそんなに急いでいるのか。そう思いながら、そんな陳腐な朝の風景に同じく回収されてしまっている自分を自嘲しながら、ペダルを踏み回していた。  眠たいし胃が重いし体調が(すこぶ)るすぐれない。学校での長い一日の始動を否応なく予感させる朝が嫌いだった。     
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