朝の陽の珠

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 だからその日もいつも通りに、息苦しさが血液に溶け全身を駆け巡る不快に耐えながら、朝のホームルームが行われている教室に着席していた。担任の話を聞き流しながら、なんとなしに、教室の窓のほうを見た。  席替えが行われたばかりで、私の席は一番廊下に近い列の最前だった。だから目をやった窓というのは、廊下とは反対側の壁面にある、中庭に臨む窓だ。ちょうど朝日が差し込んでいて、少しだけ眩しい。  その手前のものに、目が留まった。  横顔。  私の席から一番遠い列の、同じく最前席。朝日を注ぐ大きな窓の、すぐ手前の席。そこに座る少女の横顔だった。  薄桃色の唇に差すやわらかな朝の陽がハイライトになって、小さく白く輝いている。  息を、呑んだ。呼吸が、ゆっくりになる。  雑音が遠くへ引いてゆく。  彼女の薄桃の唇に据えられた光の真珠。  本当に、綺麗だった。  その小さな光はどこまでも優美で純粋で、雑然とした朝の時間に存在する唯一の透明なのではないかと思えた。美妙、幽玄、高雅、どれだけの言葉を尽くしても、この情感を言うには足りない。朝の時空間を満たす陰鬱を、貫き照らして晴らす。密やかに冴えわたる凛とした煌めき。     
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