16人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
***
わたしとお兄ちゃんは六つ年が離れている。
お父さんもお母さんも仕事をしていた我が家では、お兄ちゃんがわたしの面倒をみてくれた。
優しくて頼りがいがあって、とてもかっこいいお兄ちゃんはわたしの自慢だ。「理想の男性は?」って訊かれたら、わたしは迷わずにお兄ちゃんって真顔で答えてる。
そんなお兄ちゃんは、わたしが物心ついたころからモテていた。いつも家の前には数人の女の子がお兄ちゃんの帰りを待っていたし、バレンタインデーには、しばらくは見たくなくなるほどのチョコレートを持って帰ってわたしにくれた。
そんなにモテたのにも関わらず、お兄ちゃんは特定の女の子とは付き合おうとはしなかった。
大学に入っても、彼女の一人も作らないお兄ちゃんのことを両親は心配していた。お母さんなんか「小さい頃から那奈の世話を任せてしまったからかしらね」って、暗にわたしのせいみたいに言った。
でも、そのおかげでわたしは立派なブラコンに育った。お兄ちゃんだってわたしに負けないシスコンだと思っている。
「ただいま」
下からお兄ちゃんの声がした。すぐに「おかえり、大樹」とお母さんの弾んだ声がして、廊下を歩くお父さんのスリッパの音もする。
お兄ちゃんを迎えるにぎやかな玄関の様子に、わたしは一階に降りるのを躊躇する。いやだな。本当に彼女さんに会いたくない。
(でも、無視するなんて小姑みたいなことはしたくないし……)
覚悟を決めて自分の部屋を出た。階段を降りようとして、なんだか一階の雰囲気が重たいことに気がついた。
(お客さまを迎えるんだから、もっとはしゃいだ感じがあってもいいんじゃない? どうしてこんなに静かなの?)
わたしは息をひそめて、階段下の話し声に耳をすませた。
「大樹、あのこちらは……」
「電話で話した俺の紹介したい人だよ」
「初めまして。私は松本といいます」
お兄ちゃんの彼女は松本さんっていうんだ。でも、声はそんなにかわいくない。
最初のコメントを投稿しよう!