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(なんだかとても不思議な雰囲気の人だな)
わたしは思い切って核心に触れてみた。
「松本さんって、お兄ちゃんと付き合っているんですか」
松本さんから笑顔が消えた。しばらく黙ったあと、彼は「そうだよ」と答えた。
「でも、男の人ですよね。お兄ちゃんとどこで知り合ったんですか」
「……僕は大樹の会社の上司なんだ。大樹が転勤でやってきてから交際をしているんだよ」
だからこの人は、とても落ち着いた大人の感じがするのね。
「お兄ちゃん、今まで彼女とかいなかったんです。お母さんが心配するくらい浮いた話が本当に無くて。もしかしたらそれは、お兄ちゃんが男の人が好きだったから?」
「それは大樹本人から訊いてもらいたいけれど、僕はそうだよ」
その話にわたしは妙に納得した。きっと、お兄ちゃんは恋愛対象が男の人だってことを、わたしたちには隠してたくさん悩んできたんだ。そしてとうとう、本当のことを打ち明けることにしたんだ。
「僕は、カミングアウトするのはまだ先でいいじゃないかって言ったんだけど、大樹は『いつまでも隠し通せるものでもないのだから、早いほうがいい』って」
「お兄ちゃんは思い立ったら即実行タイプだから。でも、うちの両親もちょっと考えが古いから、わかってもらうのは厳しいんじゃないかな」
「そうだね……。僕も経験しているから、わかるよ」
松本さんがわたしに微笑む。その表情は哀しそうにも見えた。
「那奈ちゃんもいやでしょ? お兄さんの相手がきれいな女性じゃなくて、こんなおじさんで」
確かに松本さんはお兄ちゃんよりもずいぶん年上みたいだけれど、スリーピースのスーツをかっちりと着こなし、軽く後ろに流した髪も気を使っている様子が垣間見えて、わたしの思うおじさん像には当てはまらなかった。むしろ、どうしてこんなに大人の色気に溢れた人がお兄ちゃんと付き合うことになったのか、そのことに興味が沸いた。
「びっくりはしたけれど、いやじゃないです」
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