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わたしの答えに松本さんは驚いている。
「どうして? 僕らは男同士だよ? 普通じゃないって思わないの?」
『普通じゃないなんて、自分が一番わかってるよ!』
昨日の萌香の金切り声がよみがえる。思わず身震いしたら、わたしが寒さに震えていると勘違いした松本さんが上着を脱いで手渡してくれた。
「風邪をひくといけないね。おじさんので嫌じゃなかったら着て」
「松本さんはおじさんじゃないですって」
わたしはありがたく受け取った上着を羽織った。松本さんの体温が残る大きな上着は、とてもあたたかくわたしを包んでくれた。
「あのね、松本さん。実はわたし、同じクラスの子に告白されたんです」
「那奈ちゃんの学校って確か……」
「でもわたし、その子にどう応えてたらいいのかわからなくて。そんな時にお兄ちゃんが将来のお嫁さんを家に連れてくるって聞いて、なんだかいっぱいいっぱいになっちゃって、元気のないわたしを心配してくれたその子に酷いことを言っちゃった……」
『萌香にわたしの気持ちなんてわからないよ。だって萌香は男の子を好きになれないんでしょ』
――本当に最低だ、わたし。
「那奈ちゃん」
松本さんが今度はハンカチを目の前に差し出している。いつの間にか涙がほほを伝っていた。ハンカチを借りて涙を拭いたら、ファンデーションがついてしまった。
「……ごめんなさい。ハンカチ汚しちゃった」
「いいよ。この涙はきれいだ。だって、君が彼女のことを真剣に想って流した涙なんだから」
松本さんは手を伸ばして、わたしの頭をぽんぽんと撫でてくれた。
(ああ。お兄ちゃんがこの人を好きになった理由がわかったような気がする)
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