16人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「健司さん、お待たせ。あれ? 那奈もここにいたのか」
息を弾ませたお兄ちゃんが、わたしたちに駆け寄ってくる。わたしと松本さんは同時にベンチから立ち上がって、お兄ちゃんを出迎えた。
「お兄ちゃん、どうだった? お父さんたち、わかってくれた?」
一瞬、お兄ちゃんは驚いて、すぐに何かを悟ったように笑った。
「だめだめ。一回くらいじゃ認めてくれないよ。でも、自分の気持ちは伝えられたし、これから根気よく話し合っていくよ」
お兄ちゃんは、わたしと一緒に心配そうにしていた松本さんに微笑んでいる。その慈しむようなやわらかい表情を、わたしは初めて見た。
「那奈もごめんな。こんなところで寂しかっただろう?」
「ううん。松本さんもいてくれたし、いろんな話ができて楽しかったよ」
「僕も那奈ちゃんと話せてよかった。それに大樹が言ったことが正しくて少し驚いてる」
なに、とお兄ちゃんと声を揃えて松本さんに訊ねる。松本さんは、本当に仲良しだねって言ってから、
「お父さんやお母さんは無理でも、那奈ちゃんだけは僕たちのことを理解してくれるって話だよ。実は僕は半信半疑だったけれど、那奈ちゃんと話していて大樹の言葉に得心が行った。それだけでもここに来た意味が十分にあったよ」
お兄ちゃんが得意げにわたしの髪をくしゃくしゃと撫でた。もう、松本さんにみたいに優しくない。せっかくきれいにセットしていたのに。
最初のコメントを投稿しよう!