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俺と柿田は同性のカップルだ。大学のゼミで出会い、先に好きになったのは俺で、告白してくれたのは向こうだった。同性同士にしては驚くほどすんなりとカップルになって、今月でちょうど1年。社会人になって、ほとんど毎日どちらかの家に入り浸っていた学生の頃のような頻度では会えなくなったけれど、時間の許す限りなるべく一緒にいたいと思う気持ちは二人とも同じだった。―――はずだった。
*
ようやくの梅雨明け宣言の出た土曜日の午前十一時、国道沿いの牛丼屋は今日もすでに半分以上席が埋まっている。
あのカップルの会話は何だったんだろう、というのはあれからも何度か話題にのぼったけれど、やがて忘れた。それがもう、ふた月も前のことだ。だからここへ来るのも、二か月ぶりということになる。もっとも、今日は一人だけれど。
喧嘩してひと月近く、一度も連絡すら取らない日が続いているこんな土曜日に、わざわざ電車に乗ってまでなんとなくここへ来てしまうのは、我ながら未練がましいとは思う。
喧嘩の原因はささいなことで、今までにも何度もあったようなことだった。久しぶりのデートを約束していた夜に、直前になって向こうに断れない種類の職場の飲み会が入ったこと。それは仕方がないけれど、一次会の居酒屋から三次会のカラオケまでずっと、柿田に片思いしていることを公言している同僚女性がずっと隣に座っていたことを後から人づてに聞いて、ショックを受けた俺がそれを態度に出してしまったこと。ちょうど虫の居所が悪かった柿田が、『そんなの俺がしっかりしてれば済む話だろ、いちいち気にするなよ』と呆れたように言ったこと。―――そうなってしまえばあとはもう、お定まりの『言わなくていいこと』の応酬で。
こういうことに『正解』なんてないし、目に見える形での『約束』がしづらい同性の恋人との関係の維持は難しい。特に、物心ついてから男しか好きになったことのない俺と、出会う前には女の子を切らしたことがなかったあいつとであれば、なおさらだった。
柿田を疑ったわけじゃない。喧嘩になってしまうのが分かっていて、すんなり流せなかった俺が悪かったと今は思う。
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