第1章

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だけどそんなの本当はどちらにせよ大した問題ではなくて、たぶんどっちかがこの辺でやめよう、って言えさえすれば済んだことだったし、今まではそうだった。お互いに、悪かった、と言えば問題なく仲直りできたはずだったのに、いつの間にか後に引けなくなっていて。 初めて、『終わり』の存在を意識した。 ―――あ、あのカップル今日もいる。 ほどよく混んでいる店内は、どこに座っても不自然ではない。ちょっと気になったので、隣の席に座ってみることにした。 「あれはジョニー・デップかな」 「どうかなあ」 ―――やっぱり、今日も変な会話してる。 「……でもほら、あの袋」 「ああほんとだ、じゃあジョニーだ」 「ね、あっちはブラッド・ピット?」 「いやでも、来る方向が違ったし袋も持ってないよ」 「これからかもしれないじゃん。あの雰囲気は間違いないって」 そんな謎の話をしているカップルの隣を、若くて綺麗なOL風のお姉さんが通って会計に向かう。 「ねえ、あの人アン・ハサウェイだったよ、意外だけど」 「え、嘘」 「だって、よっちゃんいかとブラックサンダーと小さいポテチがバッグからはみ出してたもん」 そこで俺の注文した牛丼が来て、ちょうど食事を終えたカップルは席を立った。その後ろ姿を見送りつつ、俺は店の中を見回した。 休日の朝が昼に変わろうとしているこの時間、大きな国道沿いに建つこの店の客層はだいたい三つに分かれている。 一つは休日の外出を楽しむ前に早めの昼食をとるカップルや家族連れ。そしてもう一つはほとんど部屋着みたいな恰好のまま朝食兼昼食を取りに来た地元民らしき人たち(地元民ではないが、俺もここに含まれる)。そしてもう一つは、もう何年も身なりに構ったことのないような雰囲気の年配男性や上下スウェット姿の若者、金髪がいわゆる『プリン』状態になったおねーさん―――主に皆、同じ無印の紙袋を手にした……。 ―――もしかして。 そのとき、ひとつの仮説が頭の中に生まれた。そうなるともう食事をしていても気もそぞろだ。さっさと残りをかっこんで店を出る。すると、さっきの後頭部の髪が薄い『ブラッド・ピット』が前を歩いていた。 ちょうどいい。ついていくことにした。 橋を渡って、信号を一本渡って―――。 はたして、答え合わせはあっけないほど簡単だった。
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