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「ワタル、ごめんな。俺、ずっと謝らなきゃって思ってた。でも自分から連絡するのが怖くて、後回しにしてたらどんどん怖くなっちまって……。それで初めて、こういうときいつもきっかけをくれるのはお前だったんだって気付いた。俺はお前に甘え過ぎてて、お前の気持ちを思いやれてなかったんだなって。……それでさ、ちょうど今、ラインしたとこだったんだ」
「え」
慌ててスマホを出すと、確かに五分前にメッセージの着信があったところ。
「ごめん、急いでて気づかなかった」
「うん、だから、送った瞬間インターホンが鳴ってお前の声がしたとき、すげぇびっくりした。瞬間移動でもしてきたのか!? って」
「はは」
俺は笑ったけれど、柿田は改まった面持ちのままで言う。
「来てくれてありがとう、本当に感謝してる。このまま自然消滅なんて、絶対に嫌だったんだ」
「ううん、それは俺も……連絡して振られたらどうしようって、こわくて、時間だけが経っちゃって。勇気を出して、もっと早くに連絡すればよかった」
俺もごめん、と頭を下げる。顔を上げると目が合って、柿田の顔がほっとしたように緩んだ。
「……安心したら腹減っちゃったよ。俺も昼飯牛丼にしようかな」
「そう言うと思って、来がけにもう一度牛丼屋に寄って、買ってきた」
そう言って、柿田の目の前にビニール袋を突き出した。
「おみやげ」
再び目を丸くして、それからふきだして、柿田は笑いながら「やっぱ、すげえ」と言った。
「テレパシー?」
「それを言うなら予知能力だろ」
俺も笑って、靴を脱ぐ。玄関の鍵を閉めたところで、不意に手を引かれて、抱き締められた。
「予知能力があるならさ、ゴムも買ってきてくれた?」
「バカか」
付き合うなんていうのは、きっとこんなことの繰り返し。
話したいことを話したい誰かに当たり前に話せる幸せを、何度でも忘れて、何度でも思い出して、そうやって俺たちはこれからもずっと一緒に昼下がりに牛丼を食べるだろう。
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