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わたしの馴染みのある苗字とは違う字が表札に書いてあって、少し寂しくなってしまったけれど、
その寂しさごとわたしは、あなたの家のインターホンを鳴らした。
暫く待った後、玄関のドアから、あなたの旦那さんが出てきて、
入って下さいと、ゆっくりドアを開けた。
ここに来るのは、あなたが結婚した時以来の1年ぶりなのだけれど、
中の様子は、前と変わらず、綺麗に整頓されていた。
あなたは決して几帳面なタイプじゃないから、
きっと旦那さんが掃除を頑張ってくれているのだろう。
暫く歩いた後、どうぞ、と旦那さんがドアを開けた。
わたしは、ゆっくりと中に入った。
「久しぶり」
「元気にしてた?ちゃんとご飯食べてるよね?」
「旦那さんとは仲良くやれてるみたいじゃない、嬉しいわ」
「そうだ、これ、作ったの。あなた、今日で結婚して1年でしょう?」
そう言ってわたしは、紙袋からゆっくりと、花束を取り出して、あなたの前に置いた。
「ほら、いい香りでしょう?」
返事は帰ってこなかった。
「……結婚一周年、おめでとう」
「…………愛してるよ」
返事がないまま、静まり返った部屋の中でわたしは、
じっと、あなたの目を見つめた。
少しの濁りも無い、澄み切ったあなたの黒い目と、わたしの目は、合わなかった。
……そりゃそうか、遺影なんだもの
わたしは、そのまま、座布団の上に座って、
両手を合わせて、暫くの間、両目を瞑っていた。
少しした後、両目を開けて、あなたをもう一度みつめた。
あなたは、笑っていた。
一年前と全く変わらないままの笑顔で、ただ、笑っていた。
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