女同士なんてろくな会話しない

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「私が違うといったのはね、櫻子さん。貴女の発言は乳首の描写への自由を貶めるものだからよ。乳首は自由であるべきなのよ。決して抑圧されるべきではないわ。自分の乳首の在り方を人の乳首に押し付けるなんて、それはもう人の乳首ではなく、人の乳首を自分の乳首にしてしまう危険な思想なのよ。アニメや漫画だって、男性の乳首を省略されてしまうこともあるけれど、それは女性が乳首を隠しているのと同じように、男性が乳首を恥じらいと共に隠していると考えたなら、一種の愛らしささえ感じられるわ。ああ、でも、勘違いしないでちょうだいな。私だって日々、櫻子さんのように苦しんでいるのよ。いいえ、苦しむと言うより悲しみよ。だって、なぜ映画で性交渉(これを口にする際、明石はとても恥じらいがある様子だった)をした後にベッドに横になる男女は、男性は乳首を隠さない裸体で横たわっているのに、常に女性はあんなにシーツを胸に巻き付けているの?  だって、シーツはベッドマットに敷くものであって、体に巻き付けるものじゃないでしょ? ましてやあの子達(シーツ)は女性の乳首を隠すために産まれてきたわけじゃないのよ? それを、あんなにぐるぐる、ぐるぐると! ベッドに組み敷いて散々二人にかき乱された挙げ句にベッドからも引きはがされ、ついには乳首を隠すための玩具にされる! 残酷なあの場面に出会うために私はこの胸が張り裂けてしまいそう!」 明石はテーブルに突っ伏して殆ど錯乱するかのように泣いていた。色素の薄いぱっちりと切れ長で釣り目がちな瞳が悲しみに歪み、真珠のように美しい雫が幾つもこぼれ落ちた。 突っ伏した明石の腕の隙間から僅かだが伺えるその真珠如き光を落とす明石の姿は、神秘と呼ばずしてなんと言うというのだろう。 すかさず明石の隣に控えていた麗子が、聖母マリアが、子イエスを抱き抱えた時のように慈愛に満ちた微笑みを湛え、明石の背をさすってやり、居酒屋の店員に水を持ってくるように伝えた。     
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