笑美と私

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 私と笑美が夢見たのは料理人だった。  笑美は地元での地産地消に強い憧れを抱いていた。人に流されやすい彼女が確固とした意志を持ち、高校を卒業したらそのまま調理師学校に進むと宣言したときなどは感動すら覚えた。  笑美なら絶対に成功できるよ、そういって彼女の進路を後押しできたことは今でも誇りに思っている。  それだけに料理人をあきらめて芋農家に嫁入りしたと聞いたときは虚しさが胸に去来したものだった。    対して私は、スペインの伝統に魅せられていて。  ろくすっぽしゃべれもしないくせに身一つで留学し、スペインの伝統を学びはじめた。  だが18歳の若造が一人で海外に出てうまくいくはずなどなかった。  安い男に引っ掛かり。  身ぐるみを剥がされ、男の策略にはまり周囲から完全孤立させられ、学校にも通えなくなり。  金がないならば身体を売ってこい、スペインでは金がないなら身体で稼ぐんだ。そう洗脳されて売春宿に売られ。  初めての「営業」のあと、受け取った金の気持ち悪さに絶望している私を気持ちの悪い言葉で慰めた後。男は金をかすめ取って「さあ次の金を稼いで来い」と言い放った。  何のために生きているのか、ものすごく悩んだ。  そんなツラで店にいられちゃ迷惑だ。  売春宿の主はそういって私を宿から追い出した。  食べるものもお金もないような状態で家に戻った私のもとに、荷物が届いた。  あて名書きには笑美の書いたアルファベット、中には彼女の作った芋がたくさん詰まっていた。  飢えていた私には、これ以上ない御馳走となった。
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