笑美と私

6/20
前へ
/22ページ
次へ
 一度大きな波に乗れば、あとは沈まぬように流されるばかりだった。  荒波を乗りこなしているうちに師匠の店はどんどん大きくなりチェーン展開も順調に進んでいった。  私の名も売れた。  私は次第に、取材やチェーン店状況確認のために調理場に立つ時間が短くなっていった。師匠と私でしごき上げた師匠の娘さんがたくましく成長したころには、私は包丁を置き、経営を担当するようになっていた。  あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ。  膨大な仕事を前にして、けれど優雅にふるまわなければライバルとして成長してきた他企業に食い物にされるというプレッシャーとの戦いが襲い掛かってくるようになった。  笑顔の仮面の下で疲れ果てた私を、頭の中でちらりと浮かぶ笑美の幸せそうな笑顔が癒してくれていた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加