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元々、祖母はお風呂が好きだった。銭湯へ行き、意気揚揚とお風呂に入り、長風呂し、体を洗い流す。私との背中の流し合いも、背中を向け合うあの儀式も、祖母は気に入っていた。
それは半分ボケている今でも変わらない。
銭湯へ家族で行き、私は最初に化粧を洗い流させてもらった。濃かった化粧はしめり、もとの肌色が顕になる。祖母と母は先に風呂へ入っていたが、やはり母はすぐに音を上げた。頭の先から足先まで肌を真っ赤に染め上げて出ていく。残ったのは冷たい肌色をした祖母と洗い場にいる私のみになった。
鏡に映るのは私。昔の小さな乳房はそこにはない。立派な乳房が二つ。お腹周りがきゅっと絞られている。化粧はないが、整った眉毛があり、髪は結あげている。そこには女の子な私がいた。
銭湯はむわっとした霧がたちこめ、一歩先すら分からない。湿り気のある霧は肌に吸いつき、水粒が生み出される。体中は火照り、産毛が逆立つ。
霧の中、祖母がやってくる。
私に背中を向けるように言い、私は首を振った。祖母に背中を向けるように促した。祖母は少しも不満がらずこちらに背中を向けてくる。真っ白な背中だった。肌はかさつき、老いをすぐさま見て取れる。浮かぶ水滴をタオルでごしごしとぬぐい、泡を立てた。今度は泡と共に背中をこする。桶にお湯をたっぷりいれ、祖母の背中の泡を流した。湯気がむわっと立ちはだかり、視界をくもらせる。
視界があけると、そこには祖母の姿。しわしわでかさかさな肌。垂れた乳。萎んだ唇のしわ。
思わず目を背けてしまう。その姿はいずれ母が、私がなっていく朽ちはてた先の未来。
永遠なんてないから、『その時』の明確な時間を知りたくなる。祖母がいなくなった時私は果たしてこの背を思い出すだろうか。それとも自身の背中がいずれなくなることに絶望し大好きな祖母すら思い出さなくなるのだろうか。
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