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祖母の家の近くの公園には高い台があった。祖母の家には遊び道具もなく、ただただ時間が過ぎて行くだけだった。眠るのも飽きて、夏休みの勉強もしたくなかった私はよく両親や祖父母の目をかいくぐり、その公園に遊びに行っていた。両親が別段気にしなかったのは同伴にいとこもいたからかもしれない。同伴していたとして、その遊びをとめないのでは意味はないが。
その遊びというのは、公園にある高い台から飛び降りるというものだった。およそ階段十段くらいの高さがある台だ。この台は隣の家の段差から生じていたもので、小さな家の密集地の中にある公園特有の小さなくぼみだった。本来昇ってはいけない段差だが、いとこたちや私はそこに乗って飛び降りるという度胸試しをやっていた。
最初の頃は私も怖かった。大きな段差だ。上ったのは良い。そこから飛び降りて地面に無事に着地できるかは分からない。いとこたちは飛び降りて着地し足が痺れる、その瞬間が面白いみたいでどんどん上っては飛び降りてを繰り返していた。
ーー大丈夫。楽しいから飛びなよ。
下から手を振るいとこたち。どの子も満面の笑みで出迎えていた。一歩間違えば骨折、あるいは転落事故になりかねない。が、そこに魅力があった。そうして犯したリスクの先に自身が地面に着地する快感が待っていた。
震えていた。足元もおぼつかず、飛び降りずにそのままずるずるとおしりを壁に伝わせて降りようとすら思っていた。
最近、この台を見に行ったが思ったよりも高さがなかった。しかし、あの頃の背や恐怖心は克明に覚えている。
遠い地面。落ちて死ぬ自身の転落死体。同時に自身の着地成功の姿が思い浮かんだ。
最後に浮かんだのは祖母が背中に刻んだ想いだった。
祖母の想いが背を押した。
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