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飛んだ。背中に翼が生えたみたいに滑空した。空中にふわっと浮いた感覚。頬に汗が伝う。空色が視界をかすませる。白い雲すらない澄み切った空。いとこはその光景にぽかーんと口を空ける。黒くどこまでも深い目。
私は足をきちんと地面に向ける。着地。大きな音はしなかったが、足元から雷をうけたみたいに痺れが伝わってくる。痛みがふくらはぎを駆ける。木の根がはうように痛みは数秒留まる。その痛みに耐えかねて私は片足でその場でくるくる回った。そしてその場にうずくまり、背中を地面向けて、仰向けになる。
ーーたのしー。
両腕を高くあげる。
こんなに簡単に空が飛べて、その後に刺激を感じられる。そのことが私にとっては新鮮だった。飛んでひやっとして引っ込んだ汗が一気に噴き出し、感情の高ぶりを助長していた。
後ほど、祖母にそのことを話すとこってりと怒られた。背中に込めた想いをこんな度胸試しに使うなんてもってのほかだ。が、しかし、私も幼かったのだ。祖母の叱りに私はつっけんどんな対応をした。
私にとってその台から飛び降りたことは誇らしかった。だが、その誇りを祖母は分かってくれない。そのことに悲しんだ。その認識違いを分かっているのか分かっていないのか、分からないが祖母は私の背中に手のひらをあてた。冷たい手は空を飛んだあの冷たさとは違い、手のひらの輪郭は冷たいのに中身はぬくもりが感じられた。背中越しに伝わってくる温かさは、冷汗ではなくきちんとした新陳代謝の熱さをはらみ、肌に汗をにじませる。次第に熱くなる祖母の熱に私は扇風機に向けあー、と声を上げて知らないふりをした。
肌の皮膚が伸び切っていて、骨や血管が見える祖母の手。背中越しにどくどくと手の脈が聞こえた気がした。
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