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「…そっか、じゃあ、オレが今日一日付き合ってあげよーか?」
「えっ…?いいんですか?」
「まぁね…。急いで書かなきゃいけない原稿も今のところないし…」
「嬉しいです、オレ!是非お願いします…」
雅の顔がパッと明るくなったのを見て、明も嬉しそうな顔をする。
「了解。雅、朝飯食べたの?」
「いえ…まだ…」
「マーケットのなかに美味いフォーを食べさせてくれる店がある。そこへ行こう…」
「はい!」
その日一日、雅は夢のようにエキサイティングな時間を過ごした。
この国に滞在しているだけあって、明はとても頼りになった。
屋台で飲んだソーダチャイン(レモン果汁+砂糖にソーダ水を加えたもの)が「青春の味」だと大真面目に語った明と一緒になって笑ったこと。
彼が住む地域はやたら「グェン」さんという名前が多くて最初は困ったこと。
悪路が多い地域はゾウに乗ったりする…と聞いて嘘かホントか疑ったり…。
さらに遺跡や古い寺院を回ったりしていると、あっという間に時間は過ぎた。
気がつけば、日没になっていた。夕方あたりから屋台が立ち並びはじめ、あっという間に広場は食堂街に変わる。
その一角で、二人は夕食をとり、ビール片手に語り合った。
「…今日は……楽しかったです、明さん」
「オレも……久しぶりに楽しかったよ。こんなとこに住んでると、本当に日本人は珍しいから…。一緒に住んでいた友人がいたんだけど、不慮の事故で亡くなってね…。今は独りなの」
急に淋しげな顔をした明に雅はどんな風に声をかけてよいか解らなかった。
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