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二人の間に沈黙が続いたあと、先に口を開いたのは明だった。
「…雅、今夜は……」
ホテルには戻らないでよ……。
彼はふいにそう呟いた。このまま二人、別れるのは名残り惜しい…。
それは雅自身も心のなかで揺らめく感情だった。
明の声、指先、仕草…何もかもがいつの間にかとても心地良くなっていた。
仕事を中途半端に投げ出し、上司から喧嘩ごしで有休をもぎ取って日本を飛び出した自分は、今は嘘のように穏やかな気持ちになっていた。それもすべて明のおかげだと思った。
一人の人間として、その存在を彼が認めてくれている。雅はそれがたまらなく嬉しくかった。
「キスしたい。アンタと、それ以上も」
明にそう言われ、まるで返事をするように唇を重ねあった。
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