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第四章 秘密
滞在日程もわずかとなった雅の今回の旅は、「日向 明」とこの国で出逢ったことで、濃密なものとなった。
いわゆる観光スポットをお決まりのコースに合わせて移動するのとは違い、明がチョイスした場所を巡る形となったのだ。
それに加え、奔放な明の愛に雅はどんどんのめり込んでいった。
汗と埃とスコール。この国の粗雑な気候が、彼の情熱を掻き立てるのか、時として、明は場所を選ばず雅を求めてきた。
路地で隠れ、貪るようなキスをいきなりされたかと思えば、突然降ってきたスコールを避けながら、農家の狭い軒下で、激しくスリリングなセックスに及ぶこともあった。
熱帯植物である青紫木の葉に雨が叩きつけられ、秘め事に喘ぐ声を掻き消してくれた。雅は我を忘れて明との行為に溺れた。
「青紫木は有毒植物なの。このあたりでは≪盲目の木≫って呼ばれてるよ」
雅は己自身の眼を閉じ、ひたすら明に身をまかせた。
彼自身も、異国にいるせいで開放的になっているのかもしれない。
狂おしいほど明が欲しくなるときは、自分の方から褥に誘うこともあった。
そして今も…真夏の太陽に隠れ、明の部屋で二人は愛し合っていた。
「……好きだよ、雅……」
「オレも………あなたが」
くたくたに交わり疲れ、泥のように眠る。そんな数日間が二人を虜にしていた。奔放な愛に耽ることに、なんの躊躇いも感じなかった。
「明さん…オレ、明後日、日本に帰らないといけないんです」
「……そうなの。早いね…」
明の淋しそうな表情は隠しきれない。彼にとっても、雅は自分の体の一部のように大切な存在になりつつあった。
「…オレも……近々日本に帰るよ。その時には、アンタに会いたいな…」
「必ず、会いに来てください…待ってますから…」
こんなに激しく誰かを愛したのは、互いに初めてだった。
どうしてこんなに激しい恋に落ちたのだろう?
運命だとか、赤い糸だとか、
女性ならきっと難なく解決できる表現を持っているのだろうけれど…
自分たちには、どうしても表す術が見つからない。
だから、互いに抱き合うことでしか、大切な存在を肌や心に感じることが出来ないのかもしれない。
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