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「…前から気になっていたんですが…」
雅は明の左上腕に指をそっと滑らせる。
「このタトゥー、変わってますよね…」
「ああ、うん…」
明はそれ以上は何も言わなかった。触れてほしくない訳でもあるのかもしれない。
それはまるで燃え尽きようとする、寸前の炎のような模様だった。
明に抱かれている最中でさえ、その文様が何故か気になって、ついつい見つめてしまう雅だった。
「…セックスしてる時ぐらい、ぼんやりしないでよ…」
明は苦笑しながら雅を突き上げた。
「……だって……あなたのことだけ、考えて……」
「……なら許すよ」
息をのむような興奮と快楽で、彼はその後、明のタトゥーについて触れることはなかった。
得体の知れない危険な男。
一瞬だけ雅の脳裏に不安がよぎったが、それは明に抱かれることによって、簡単に掻き消されてしまうのだった。
*************
雅が帰国する日、彼は空港のロビーで別れを惜しむ辛さでやるせなくなるかと思いきや、
明が見送りに来てはくれなかったので、少しだけ落胆していた。
あっけない搭乗。そして10時間後には成田に着いていた。
「…やっぱり流されていたのだろうか。…明さんとあんなふうになったのも、旅先ではしゃぎすぎていたんだろうか?」
雅はトランクの取手を伸ばし、キャリーの状態で荷物をトロトロと運んだ。
再会を約束したが…
あれも情事の最中だったし、
本気になるのは、よくないのかもしれない。
雅は気持ちを自分でなんとか切り替えようと試みた。
あれは、ちょっとふざけていただけだと。
人恋しくて、明に縋っただけなのだと。
それにしても…男相手に火遊びだなんて…
情けなくて泣けてくる…。
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