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雅は彼を自宅に招き入れた。
「…今日は、うちに泊まってくれるんですよね?」
「いや……ホテルに帰るつもり」
「…そんな!折角会えたばかりじゃないですか?」
「……ごめんな。だけど…」
明は雅の頬を手の平でそっと撫でた。
「雅……しようよ?」
明らしい変わらないストレートな誘いだと思った。あの汗と埃の混じったセピア色の空気のなかで、無我夢中で愛し合った残像が未だに雅の脳裏に鮮やかに蘇る。
甘い吐息と激しく翻弄された快楽にゾクゾクしたあの日々を思い出してしまう。
ごくり…と雅は小さく喉を鳴らす。
その後、二人で噛み付き合うようなキスをして…。
魚になってシーツの上で絡みつくように泳ぐ。
「……会いたかったよ、雅……何度もアンタの体のこと、思い出してた。背中のホクロの場所も、どうすれば感じてくれるかとか、想像するだけでたまらなかった…。はやくアンタを抱きたいって…ずっと想ってた」
「……ア……キ……ラ…さん」
(オレをこんなふうに出来るのは、あなたしかいないんだ…。)
オレ……
あなたに狂ってる
オレ……あなた無しじゃダメみたいだ…。
わかってるんでしょう?明さん…。
淫らに互いを貪りながら、昇りつめていく。
「アンタの心に歯型をつけてやりたいよ…アンタがオレのことを……忘れないように」
その貪欲さが枯渇を知らない、永遠のものであるかのように、二人は何度も愛し合った…。
*************
シャツに袖を通す明の背中を見て、雅は行為の最中に気付いた、不穏な傷痕の理由を彼に尋ねていた。
「……明さんの右の脇のあたり…怪我でもされたんですか?それ、まだ最近の傷ですよね?」
「………あ?ああ。まぁーね。知り合いにクレイ射撃を趣味でやってるヤツがいて、ちょっと当たっただけだよ」
「…………………。」
明は…嘘をついてる。これは雅の直感だ。
何故なのかは解らない。ただ、彼があの左上腕のタトゥーといい、自分に何かを隠しているのだと、このとき雅は確信したのだ。
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