第四章 秘密

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 今の捜査に彼を巻き込んだら…殺すことになるわよ…?  ルミの忠告に明は解り過ぎている、といわんばかりの顔をする。 「…わかってるよ。だから、せっかくの夜なのに、こうしてルミ姐サンと一緒にいるンじゃないの…」 「…それはどうもごめんなさいねっ!…けど、アキラ、冗談はさておき、私たちは…あまり自分の命以外に守るものを増やすのは感心しないわ…」 (わかってるよ…。)  明は頷いただけで留まった。そう…充分解りすぎている。  自分は特務任務をもった麻薬捜査官のリーダーなのだ。 さっき雅に尋ねられた脇腹の銃創も、組織のアジトに潜入した際、銃撃戦になって被弾したものだった。 そのせいで、愛しくてたまらない雅に会うのが遅れてしまった、というのが事の真実だったのだ。 (オレの正体…雅には知られちゃいけない。厄介事にあいつを巻き込むわけにはいかないんだ…。)  何度も自分にそう言い聞かせて、自分を虜にする雅の想いを、全部受け止めることを今なお拒んでいる。 「…そのうち嫌われちゃうかな。体だけの関係なんじゃないの?って」  自虐的に笑いながら再びグラスを手にした明に、ルミは少し悲しげな顔で呟いた。 「…あなたには………アランを亡くした私みたいな想いは、して欲しくないわね…」 *************  明とルミは現在、国際的麻薬摘発捜査組織に籍を置いている。 こと明に関しては経歴も異色だった。数年ではあるが、外人傭兵部隊にいたこともある。 射撃の名手であり、対格闘術にも秀でていた。  そんなわけで彼は麻薬組織を追い、例の国に滞在しながら地道に捜査をしてきたのだ。  フランス語が堪能なのも、外人部隊にいたせいである。左頬の裂傷と左上腕のタトゥーはその時の名残りだった。  数年滞在してきて、雅と出逢ったかの国の地元では、明はちょっとした腕のたつ存在だった。 そのため、街の荒くれ者やチンピラ風情は明を必要以上に恐れた。当初、雅から手荷物を奪った二人も、明のことを見知っていた例外ではなかったのだ。  そしてルミは明の下で動く捜査官だった。 捜査の最中、恋人のアランを事件に巻き込んでしまい、失っている。
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