90人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
今の捜査に彼を巻き込んだら…殺すことになるわよ…?
ルミの忠告に明は解り過ぎている、といわんばかりの顔をする。
「…わかってるよ。だから、せっかくの夜なのに、こうしてルミ姐サンと一緒にいるンじゃないの…」
「…それはどうもごめんなさいねっ!…けど、アキラ、冗談はさておき、私たちは…あまり自分の命以外に守るものを増やすのは感心しないわ…」
(わかってるよ…。)
明は頷いただけで留まった。そう…充分解りすぎている。
自分は特務任務をもった麻薬捜査官のリーダーなのだ。
さっき雅に尋ねられた脇腹の銃創も、組織のアジトに潜入した際、銃撃戦になって被弾したものだった。
そのせいで、愛しくてたまらない雅に会うのが遅れてしまった、というのが事の真実だったのだ。
(オレの正体…雅には知られちゃいけない。厄介事にあいつを巻き込むわけにはいかないんだ…。)
何度も自分にそう言い聞かせて、自分を虜にする雅の想いを、全部受け止めることを今なお拒んでいる。
「…そのうち嫌われちゃうかな。体だけの関係なんじゃないの?って」
自虐的に笑いながら再びグラスを手にした明に、ルミは少し悲しげな顔で呟いた。
「…あなたには………アランを亡くした私みたいな想いは、して欲しくないわね…」
*************
明とルミは現在、国際的麻薬摘発捜査組織に籍を置いている。
こと明に関しては経歴も異色だった。数年ではあるが、外人傭兵部隊にいたこともある。
射撃の名手であり、対格闘術にも秀でていた。
そんなわけで彼は麻薬組織を追い、例の国に滞在しながら地道に捜査をしてきたのだ。
フランス語が堪能なのも、外人部隊にいたせいである。左頬の裂傷と左上腕のタトゥーはその時の名残りだった。
数年滞在してきて、雅と出逢ったかの国の地元では、明はちょっとした腕のたつ存在だった。
そのため、街の荒くれ者やチンピラ風情は明を必要以上に恐れた。当初、雅から手荷物を奪った二人も、明のことを見知っていた例外ではなかったのだ。
そしてルミは明の下で動く捜査官だった。
捜査の最中、恋人のアランを事件に巻き込んでしまい、失っている。
最初のコメントを投稿しよう!