90人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「すまないねー、雅。ちょっと警察呼んでくンない?」
だが、雅が慌てて携帯で110番をする前に、既に数人の警官が人混みをかきわけ、ばらばらと明の元に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
そのうちの一人が彼に声をかけた。
「いやぁ…いきなりデートの邪魔されちゃって…ビックリしちゃったの。だから、コイツの連行よろしくね」
明はウインクをすると、雅に背を向け、警官に特別警察手帳をポケットから出して見せた。
それを見た警官が緊張した面持ちで即答する。
「こ…これは、お手数かけました!!」
「…ん、オレ今日は事情聴取はカンベンして欲しいの。デートだからさ。で、明日、新宿警察署に顔出すから…」
「りょ…了解しました」
雅の目を盗み、素早くそれらのやり取りを一瞬でやってみせ、明は涼しげな顔でポケットに手を突っ込んだ。
「雅…行こう!ここは日本が誇る優秀な警察の皆様にお任せだ」
明は雅の背中を押しながら人混みから一刻も早く離れようと試みた。
幸い、野次馬は『犯人』に目を奪われやすいものだ。
ちょっと的から外れた場所に移動すれば、自分たちが観衆の餌食になるようなことは避けられる。
「肉食おうよ、雅!アンタ待ってたらすげー腹減ったのよ、オレ?」
「……はい」
雅は引きつった苦笑いをしながらも、突如襲ってきたフランス語を話す暴漢のことを明に聞きそびれていた。
否、明が雅が何か話そうとするタイミングを、故意にことごとく先回りして潰しているようだ。
明の希望どおり、二人は高層ビル群のなかにある、炭火焼の店に行くことに決まった。
30階を越えた夜景の見える店のため、高速エレベーターに乗る。
他にも乗り込んだ人間がいたせいか、二人は黙ったままだ。
ただ、
明は雅の眼をじっと見つめ、微笑んでいる。
そんな彼に対して、雅は不安を隠しきれずにいた。
絶対に……明さんに聞かなくては…。
あのフランス語の男は、偶然じゃなく、ずっとこのひとを狙っていたに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!