90人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
一向に引き下がらない雅に対して、今までふざけ半分だった明がその表情を一変させた。
それは………雅が、かの国にいたときでさえ、見たことのない、修羅のような明だった。
「………それ以上言ったら、殺すよ、雅?」
一瞬で心が凍てつくような恐怖を、彼は覚えた。
(明さん………あなたって……。いったい何者なんですか?…………。)
結局、雅は明にそれ以上尋ねることが出来ずにいた。
そして食事の最中、ずっと無言を通した。
最悪のデートだった。
自分はもう、一瞬で明に嫌われたのだと雅は思った。
予定よりも大幅に早く食事を済ませ、帰りのエレベーターに乗った。
どんどん下降するエレベーターの狭い空間のなかでさえ、自分と明の間に壁を感じた。
息が詰まりそうだ……。
情けなくて、悲しくて、悔しくて……
高速エレベーターの壁側を向いたまま、雅は涙を零した。一階に到着したことを告げるサイン音が鳴り、ドアが開く。
同乗して高層階から下りてきた客たちが全員降り、雅も続いて降りかけたとき、明が彼の腕を掴んで引寄せた。
……………っ!!
明がエレベーターのコントロールパネルの『close』ボタンを連打する。
上の階に行くために乗り込もうとしていた客達を強引に振り切るように最上階のボタンをさらに押す。
「……明さん?」
彼のいきなりの行動に驚いたまま、雅は抱きしめられ……
キスをされた。
抱き合ってキスをしたまま、エレベーターはノンストップで高層階へと上昇してゆく。
耐久ガラスの窓に映るネオンの宝石たちが、どんどん眼下へと広がって見えた。
最初のコメントを投稿しよう!