第五章 あなたを失いたくない

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 男が雅との距離を縮めようと、彼の後を尾行()けていた。もちろん雅はその身に迫る危機に未だに気付けないでいた。  男は、上着にいつでもトリガーが引けるよう、指に掛けままの銃を忍ばせながら、不気味に確実に近づいていく。  透き通るような太陽が、青すぎるくらいの空の天辺に輝いている。  男は雅を自分好みの射程距離にようやく捉え、サングラスをかけたまま、口元でニヤリと笑った…。 「伏せてッ!!」  突然のことだった。黒髪の女が自分に体当たりをして、雅は石のピロティーに叩きつけられそうになる。 「……なっ!!」 「アンタ!殺されたくなかったら、伏せな!」  自分の頭を庇って押さえつけてきた女の上着が、わずかに焦げて穴が開いているのが目に入る。 「Defequez!」  恐る恐る後方を見ると、自分から少し離れた距離で、サングラスの男が悪態をついて銃を向けていた。銃口には、消音用のカートリッジが付いており、煙が出ている。   ………また!?あの暴漢の仲間!?   今になって、雅の体が震えてくる。 「Arretez!!Autrement je le tire mort!!(止らないと、撃つわよ!!)」  女は雅を庇いながらSIG SAUER《シグ・ザウエル》 P230の自動式拳銃を男に向けた。  すると、男は舌打ちをして走り去った。女は男の後を追うつもりでいたようだが、まずは雅の身を確保する為にあきらめた。 「張り付いておいてよかったわよー、ったく!」
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