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男が雅との距離を縮めようと、彼の後を尾行けていた。もちろん雅はその身に迫る危機に未だに気付けないでいた。
男は、上着にいつでもトリガーが引けるよう、指に掛けままの銃を忍ばせながら、不気味に確実に近づいていく。
透き通るような太陽が、青すぎるくらいの空の天辺に輝いている。
男は雅を自分好みの射程距離にようやく捉え、サングラスをかけたまま、口元でニヤリと笑った…。
「伏せてッ!!」
突然のことだった。黒髪の女が自分に体当たりをして、雅は石のピロティーに叩きつけられそうになる。
「……なっ!!」
「アンタ!殺されたくなかったら、伏せな!」
自分の頭を庇って押さえつけてきた女の上着が、わずかに焦げて穴が開いているのが目に入る。
「Defequez!」
恐る恐る後方を見ると、自分から少し離れた距離で、サングラスの男が悪態をついて銃を向けていた。銃口には、消音用のカートリッジが付いており、煙が出ている。
………また!?あの暴漢の仲間!?
今になって、雅の体が震えてくる。
「Arretez!!Autrement je le tire mort!!(止らないと、撃つわよ!!)」
女は雅を庇いながらSIG SAUER《シグ・ザウエル》 P230の自動式拳銃を男に向けた。
すると、男は舌打ちをして走り去った。女は男の後を追うつもりでいたようだが、まずは雅の身を確保する為にあきらめた。
「張り付いておいてよかったわよー、ったく!」
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