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「あ…あの、さっきはすみません、有難うございました!!」
雅は男からペットボトルを受け取り、それを口にした。よく冷えた水だった。喉越しに聖水がしみこんで、まさに生き返るような感覚だった。
「……気を付けなさいよー。ここは日本と違って、油断してるとコソ泥に遭うよ?」
男はそう言うと、サングラスを外した。
あ………
サングラスに隠れていた左の頬には、深い切り傷があった。
外見だけで判断していたら、自分は間違いなく彼を誤解してしまうような…そんな傷だった。
「アンタは観光旅行?」
「あ……はい。観光というか、少し自分を見つめ直すためにココに来たというか…」
「傷心旅行か…。男にしては珍しい旅だねぇ…」
「そ…そうですか?」
雅は男に小ばかにされたような気がして少しムッとする。
「あなたはココで何をされているんですか?」
「……しがない作家ってとこかな。オレもあまりアンタのことを悪くは言えないンだよ、いわゆる自分探しというやつで、気付けばこの国に住んでいる…」
「…そうなんですか。あ!遅れてすみません、オレ、佐野 雅っていいます」
「……ミヤビ?可愛い名前…。」
男は雅の名前を聞いた途端「失敬…」と詫びながらもくすくすと笑った。
「……あまり笑わないで下さい!オレ、子供の頃から気にしてんです、女みたいな名だって」
「あーごめんね。オレの名は日向 明。よろしくね…」
差し出された手に握手で返す。一見華奢に見える明だったが、とても力強いのは握力でよく判った。
それにしても……
少し無精ひげを生やして、おまけに左頬には深い切り裂き傷の跡があって…それなのに明は男の自分が見てもビックリするほど端正でハンサムな顔立ちだった。
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