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思わず明に見とれてしまう。
(……何、顔赤くしてるんだろう、オレ…。)
慌てて我に返る自分がいる。
「そういえば、宿はどうした?チェックインしてないンでしょ?」
ぼんやりとしていた自分に、明は今夜の宿事情を尋ねてきた。
「ああ!そうだった!ホテルはわかるんです。場所が…」
「名前は?」
「カラベル…」
「了解。じゃ、送ってあげる」
明は机の引き出しから小さな鍵を取り出した。
少し休ませてもらった後、部屋の外へと出れば、相変わらず蒸し暑い空気がどっと押し寄せてくる感じだ。
雅は外に出てみてようやく、明の住まいがこじんまりとした二階建てのアパートメントだと気付いた。自分を担いでここまで運んでくれたのかと思うと、彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
部屋から下へと続く外階段を降りると、真下にオートバイ《ヴェスパ》が停められていた。
「あの…明さん、ちょっと聞いていいですか?さっきあなたが連中に向かって叫んでいたのって…」
「そ、フランス語。昔、ココ、フランス領だったでしょ?その名残りでフランス語使うヤツが多くいたり、フランス資本の会社がまだあったり…ね」
どおりで…。
アジアにあってもほんの少し、エスプリの利いた雰囲気がこの国にも漂っていたわけだ。
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