第一章 アクシデント

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 思わず明に見とれてしまう。 (……何、顔赤くしてるんだろう、オレ…。) 慌てて我に返る自分がいる。 「そういえば、宿はどうした?チェックインしてないンでしょ?」  ぼんやりとしていた自分に、明は今夜の宿事情を尋ねてきた。 「ああ!そうだった!ホテルはわかるんです。場所が…」 「名前は?」 「カラベル…」 「了解。じゃ、送ってあげる」  明は机の引き出しから小さな鍵を取り出した。 少し休ませてもらった後、部屋の外へと出れば、相変わらず蒸し暑い空気がどっと押し寄せてくる感じだ。  雅は外に出てみてようやく、明の住まいがこじんまりとした二階建てのアパートメントだと気付いた。自分を担いでここまで運んでくれたのかと思うと、彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。  部屋から下へと続く外階段を降りると、真下にオートバイ《ヴェスパ》が停められていた。 「あの…明さん、ちょっと聞いていいですか?さっきあなたが連中に向かって叫んでいたのって…」 「そ、フランス語。昔、ココ、フランス領だったでしょ?その名残りでフランス語使うヤツが多くいたり、フランス資本の会社がまだあったり…ね」 どおりで…。  アジアにあってもほんの少し、エスプリの利いた雰囲気がこの国にも漂っていたわけだ。
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