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わたしが死んだとき、イチコは泣かなかった。それが本当に嬉しくて、わたしは唇が触れそうなほど近くでイチコの顔を凝視して過ごした。きれいな肌。わたしはうっとりと彼女の顔を透けた指先で撫でた。イチコの顔をこんなに近くで見たのは二回目だ。一番最初は、高校二年生のとき。修学旅行でわたしたちは同じ布団で眠った。お互いの顔が近くて、わたしたちは笑い合った。イチコはいい匂いがした。
両親はわたしが小さいときに蒸発した。それから十数年を祖母の家で過ごしたが、わたしが死ぬ数か月前に祖母も死んだ。高校卒業を控えていたわたしは一人で祖母の家で過ごしていたが、死因こそ違うがまさか自分まで死ぬとは思わなかった。祖母、わたしとたてつづけに亡くなり、両親も蒸発しているということで、家が呪われているのではないかと近所のおばさん連中がこそこそ話しているのを聞いたが、ほんとの呪いなんてこんなもんじゃない。十八年。これがわたしの寿命だったのだろう。
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