イチコ1

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  肉体がなくなってから、できなくなったことも増えたけれど、その代わりに他のことができるようになった。壁の通り抜けなんて朝飯前だし、人を呪うことも憑りつくこともできる。だから、わたし、告白するけれど、実はずっとイチコに憑りついていた。  生前、わたしとイチコは双子のように仲がよかった。仲がいいだけではなく、好みも嫌いなものも、男の好みも全てよく似ていた。小学校のときは三組のススキガハラくん。中学生のときは二組のセノオくんと一つ先輩のタクミ先輩。高校生のときは一組のサエキくん。わたしたちは見事に同じ人を好きになった。だからといって、わたしたちは争うこともなかった。自分たちが本当にその人とどうこうなるなんて考えていなかったし、どこかわたしたちの恋心は芸能人に対する恋と似ていた。遠くからこっそり見て笑いあっているだけで満たされていたわたしたち。そのはずだったのに、高校卒業式の日事件が起きた。なんと一組のサエキくんがイチコに告白してきたのだ。憑りついているわたしにまでイチコの動揺が伝わってくる。もちろん、イチコはこの告白を受けるのだろうと思っていた。しかし、イチコはサエキくんを振ったのだ。 「なんで!」  思わずわたしはイチコの両肩を掴んだ。けれど、わたしの手はイチコの身体に触れることができなかった。興奮すると、わたしは自分の肉体がないということを忘れる。思いきり掴んだ手はイチコのお腹あたりで止まっていた。 「そっか……。うん、でも俺の気持ち伝えられてよかったよ。卒業したら働くんだっけ? 仕事、頑張ってな」 「うん、ありがとう」  イチコがお礼を言うと、サエキくんは足早に去っていった。サエキくんの耳は赤かった。きっとかなり緊張していたのだろう。 「どうして振ったの」  わたしはイチコに声をかける。しかし、当たり前だがその声は届くことはなかった。しばらく、イチコは無表情でその場に立っていた。
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