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「もう職員室に先生方がそろってる時間じゃないですか」
けだるげな様子で言ったのは、常盤と同じクラスの南だった。
「名残惜しい」
「この前、最後って言いましたよね?」
南の言葉に佐々木は黙り込んだが、その手を引いて抱き寄せると、首筋に強く唇を押しあてた。
「あ……」
ため息に近い声が南の赤い唇から飛び出し、白い顔に朱が刷かれる。
見ていた常盤はゾクッとして身を震わせた。
「駄目、ほんとに駄目」
南のうわずった声が悩ましく響く。
「おまえの味も匂いも忘れないよ」
佐々木はそう言って南の体を離すと、美術室から出て行った。
――似合わねえセリフ!
常盤は口を押さえて笑いをこらえた。
30代半ばの佐々木はとても美術教師に見えない筋肉質な体をしていて、ストイックそうな顔の裏で、簡単に教え子に手をつける肉食獣のような男だった。
「あ、やっぱり」
思いがけず近いところから声がして、南が教卓の上から顔を出した。
「こんな時間に来るの、常盤くんしかいないと思ったんだよね」
南は教卓に片手をかけたまま、常盤の目の前にしゃがんだ。
「びっくりした?」
もぐりこんでいた常盤は、南にそこをふさがれると出られない。
「そりゃ、びっくりするだろ。まさか南が佐々木とできてたなんてさ」
「できてた、って」
南はおかしそうに笑った。
「じゃ、常盤くんも佐々木先生とできてたんだ?」
「違えよ、そんなんじゃ……」
「おれも同じだよ」
常盤は絶句した。
「嘘だろ、だっておまえ、そんなやつじゃないよな?」
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