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後編
「……なに言ってんだよ?」
常盤はとっさに手で口をガードして、南をにらんだ。
「やってみたかった、って言ってんの」
「意味わかんねえ。南、そんなそぶり全然なかっただろ」
「バレバレな態度なんか見せれるわけない。いつか機会がくるのを待って待って、でもなにもないまま卒業することになりそうだったから、せめて常盤くんの絵だけでも欲しいと思ってここに忍びこんだんだ」
南の薄茶色の瞳に見つめられ、常盤は視線を外せない。
「好きなんだ、きみの絵」
常盤は推薦で美大に進むことが決まっている。得意な油絵でこれまで数多くの賞を獲ってきた実績があった。
「あ、ありがと」
お礼の言葉を聞いた南はフッと笑いをもらした。
「自分の絵を盗み出そうとしたやつに、なにお礼言っちゃってんの」
「えっ」
「もう、本当にきみってたまらないね」
南は細い指を伸ばして、常盤の両耳の穴をふさいだ。
「……」
目の前で赤い唇が動いたが、常盤には南がなにを言ったか聞こえなかった。耳の穴に指をつっこまれたくすぐったさに身をよじる。
「……」
「やめろよ」
たまらず南の手をはらいのけた瞬間、常盤の唇は無防備になった。
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