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南はそのすきを見逃さず、キスをしかける。常盤は狭い教卓に押しこめられているため、後ろにも横にも逃げ場はなかった。
「やめろっ」
抵抗する芸術家の卵らしく繊細な手を、意外に大きく筋張った秀才の手ががっちりつかんで封じる。
南の薄い舌が、常盤の舌をとらえ執拗に追う。やがて絡めとられ、南の口中に連れていかれた。
どれほど時間がすぎたのか、常盤は気が付くと南の胸にもたれかかって荒い息を吐いていた。
「キスだけでこんなになるなんてね」
満足げな南を突き飛ばしたかったが、常盤は全身の力がぬけたようになっていて動けなかった。
「誰とやったってキスだけはしなかったのに……」
かすれた声で抗議すると、南はぎゅっと常盤を抱きしめた。
「知ってる」
「えっ、なんで?」
「おれがやったのって、常盤くんとしたことあるやつばっかりだから」
常盤は身を固くした。
「怖い?」
「怖いっていうか、気持ち悪い……なんでそんなこと」
「きみがどんなふうに抱かれるのか知りたくて」
「だったら、直接言ってくれたらよかったのに」
口にしながら、常盤は自分はいったいなにを言ってるのかと思った。もし南に口説かれていれば抱かれてもよかった、と言っているようなものだ。
「汚してしまいそうで、勇気がなかった」
南は常盤を抱きしめたまま離さない。
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