後編

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 南はそのすきを見逃さず、キスをしかける。常盤は狭い教卓に押しこめられているため、後ろにも横にも逃げ場はなかった。 「やめろっ」  抵抗する芸術家の卵らしく繊細な手を、意外に大きく筋張った秀才の手ががっちりつかんで封じる。  南の薄い舌が、常盤の舌をとらえ執拗に追う。やがて絡めとられ、南の口中に連れていかれた。  どれほど時間がすぎたのか、常盤は気が付くと南の胸にもたれかかって荒い息を吐いていた。 「キスだけでこんなになるなんてね」  満足げな南を突き飛ばしたかったが、常盤は全身の力がぬけたようになっていて動けなかった。 「誰とやったってキスだけはしなかったのに……」  かすれた声で抗議すると、南はぎゅっと常盤を抱きしめた。 「知ってる」 「えっ、なんで?」 「おれがやったのって、常盤くんとしたことあるやつばっかりだから」  常盤は身を固くした。 「怖い?」 「怖いっていうか、気持ち悪い……なんでそんなこと」 「きみがどんなふうに抱かれるのか知りたくて」 「だったら、直接言ってくれたらよかったのに」  口にしながら、常盤は自分はいったいなにを言ってるのかと思った。もし南に口説かれていれば抱かれてもよかった、と言っているようなものだ。 「汚してしまいそうで、勇気がなかった」  南は常盤を抱きしめたまま離さない。     
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